あらすじ
仔猫のようにまん丸な目をした名探偵猫丸先輩が、時には船主、時には舞台役者としてひょっこり現れ、颯爽と事件を解き明かしていく、連作短編集
空中散歩者の最後
被害者の死因は墜落死。解剖の結果、落ちた高さの推定は20m以上、それ以下はあり得ない。
しかし、ここから落ちたと思われるマンションの高さは10m50cmしかなかった。現場には、落下跡がしっかりと残っており、他から移動された形跡はない。
約束
小学2年生の麻由は、両親の帰りが遅い寂しさを紛らわせるために訪れた夕方の公園で、寂しそうにベンチに座るおじさんと出会う。仲良くなった麻由は、毎日おじさんとお話しするために公園に通うが、ある日おじさんからお別れを告げられる。
最後に麻由が好きなおじさんの魔法を見せてとせがむが、あいにくその日は魔法の道具を持ち合わせていなかった。もう1日だけお別れの日を延ばし、明日も公園で会うことを約束した麻由とおじさんだったが……
海にすむ河童
【昔話】海で遭難し、無人島に流れ着いた若者の太吉と茂平。帰るためのいかだを作れる材料もない島で途方に暮れる二人だったが、海から化け物が現れて「二人で相撲をとって、勝ったほうを元の浜に返してやる」と言われ、相撲をとることになる。太吉は村一番の横綱だったが、近々結婚する茂平のためわざと負けた。約束通り太吉は殺され、茂平は無事に元の浜へと返された。
猫丸先輩はこの話を実際にあった出来事と思えてならないと言い、この昔話の合理的な解釈を語り始める。
一六三人目撃者
舞台演劇の公演中、舞台上で役者が毒殺された。毒は演劇で使ったワインに入っていたと思われるが、公演前にワインに毒を入れる機会はないように思われた。嫌疑の目は自然と役者が毒殺されたときに一緒に舞台にいた女優に向けられるが、163人の観客が見ている中で毒を入れるのは不可能だ。犯人は一体いつ毒を盛ったのか?
寄生虫館の殺人
取材のため寄生虫館に訪れた記者。一階で受付嬢に挨拶をし館を見て回る記者だったが、二階を回り終わり三階へ上がると一階にいるはずの受付嬢が撲殺されていた。エレベーターは点検整備中で使用不可、二階にいた記者に気づかれずに階段で三階に上がることは不可能。受付嬢はどうやって三階へと移動したのだろうか?
生首幽霊
復讐の悪戯をするため忍び込んだアパートの一室で八郎はそこの住人が首だけになって死んでいるを発見する。恐怖し、逃げ出した八郎だったが、あの部屋に帽子を落としてしまったことに気づく。
帽子のせいで自分が犯人扱いされてしまうのではないかと、怯えて過ごす八郎だったが、ニュースでは殺人現場は被害者の自宅ではなく、血痕や犯人の痕跡は何もなっかったと報道された。しかし、被害者の写真は確かにあの生首と同じである。
八郎が見た生首は幻だったのか? それとも幽霊?
日曜の夜は出たくない
私の家の近くで必ず日曜日に起きる連続通り魔事件。日曜日と言えば私と彼がデートをする日、すなわち、彼がデート後に私を送るため私の家の近くに来る日。
彼が連続通り魔の犯人だと思うと、どんどん彼の怪しい行動が目についてくる。
連続通り魔の犯人はもしかして私の彼なの?
誰にも解析できないであろうメッセージ
仕事の傍ら書き上げた、猫丸先輩をぎゃふんと言わせるための謎を織り込んだ七編からなる短編集。著者校正もそこそこに真っ先にゲラを猫丸先輩に読んでもらう。
蛇足――――あるいは真夜中の電話
初めての本が出版され店頭に並んでるのを確認にひと段落ついたが、まだ落ち着かない。そんな中、猫丸先輩から電話がかかってくる。
感想
本格ミステリとして申し分なく面白いが、この作品の魅力といえば、なんといっても名探偵猫丸先輩のキャラクターだろう。
猫丸先輩は名探偵の例に漏れず、上から目線で物を言うのだが、他の作品の名探偵と違いなぜだかあまり鼻につかない。
そのせいもあってか、猫丸先輩の突拍子もないキャラに驚きながらも、登場人物たちが猫丸先輩に惹かれるように、僕ら読者もどんどん猫丸先輩に惹かれていってしまう。
そして猫丸先輩は、いわゆる、安楽椅子探偵(アームチェア・ディテクティブ)の探偵である。
安楽椅子探偵とは、現場を詳しく調べることなく事件の真相を導き出す探偵のことだ。
現場検証などしなくても真相を導き出す、猫丸先輩の推理を読めば、きっと彼を好きにならずにはいられないだろう。
余談ですが、90年代に書かれた作品のなので作中では携帯電話が普及してません。ミステリを読むうえで出版日は必ずチェックしないといけないですよね。
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