あらすじ
早朝始発の殺風景
始発の電車に乗り込んだ加藤木は、電車内でクラスメイトの殺風景と出会った。登校には早すぎる時間帯。殺風景は夜遊びで終電を逃したため、始発で帰宅してるのではないかと加藤木は予想した。しかし、殺風景も同じ思いを加藤木に抱いたらしく声をかけられた。お互いに始発に乗った事情を言いたくない二人はスマホの中身や交わされる会話から互いの事情を探り始める……
メロンソーダ・ファクトリー
真田、詩子、ノギちゃんの三人は、クラスTシャツのデザインを決めるため、ファミレスに集まった。提出された案は二つ。一つはクラスの人気者が作った身内ネタのデザイン案、もう一つは真田が作ったデザイン性を重視した案。小学生の頃からの腐れ縁である詩子は自分のデザインを選んでくれると思っていたのに選んでくれなかった。去年、クラスTシャツは身内ネタやウケ狙いばかりでつまらないと言ったとき、詩子は同意してくれたのにどうして……
夢の国には観覧車がない
三年生追い出し会で部活のメンバーと遊園地に来た寺脇。青春の思い出の一ページになるはずだったが、そこまで仲の良くない後輩伊鳥と何故か二人で観覧車に乗ることに。気まずい空間の中、伊鳥と会話をする寺脇だったが、徐々に違和感を覚え始める……
捨て猫と兄弟喧嘩
公園の休息所で待ち合わせた兄妹。捨てられた仔猫を拾った妹は、自分の家ではペットを飼えないため、離れて暮らす兄を頼った。しかし、兄にもペットを飼えない事情があり……
三月四日、午後二時半の密室
卒業式を休んだクラスメイトの煤木戸。クラス委員の草間は卒業証書を届けるため彼女の家を訪れ、煤木戸がねむる部屋へと通された。そこまで仲のいいわけではなく、クラスでも浮いている存在であった煤木戸と、二人きりの空間に気まずい時間が流れるが、そんな中、草間は一つの疑念を抱いた。「もしかして、煤木戸さんは仮病で卒業式を休んだのではないか?」
感想
青春ってきっと、気まずさでできた密室なんだ。
三月四日、午後二時半の密室 青崎有吾『早朝始発の殺風景』より
親しくない異性のクラスメイトと鉢合わせた早朝の始発電車、親しい友人と意見が食い違った常連のファミレスの店内、特別仲良くしていたわけではない後輩と二人で乗る観覧車、会うことの少なくなった離れて暮らす兄妹の距離感、ただのクラスメイトの域を出ない子のお見舞い。
どの話も青春の一ページの気まずい場面。それは仲良くないからこそのものであったり、逆に親しい間柄だからこその気まずさがある。
なんというか、上手く言葉に表せないがそういった場面を密室と表現したのはすごくしっくりくる。
この作品はそういった青春の気まずさという密室の中にいる息苦しさを、ミステリとしての謎に変換している。その謎を取り除くことで気まずさを解消し、密室を抜け出す。
そこに、謎ときの面白さと青春の甘酸っぱさが詰まっていて、青春小説としてもミステリ小説としても楽しめる上質な作品となっている。
青春小説好きにもミステリ好きにもおすすめしたい一冊です。
また、コミカライズ、WOWOWでドラマ化もされていますので、そちらも是非!
◇漫画版 上・下
このブログの青崎有吾先生の記事
「体育館の殺人」裏染天馬シリーズ#1
「水族館の殺人」裏染天馬シリーズ#2
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