初めに
2020年刊行の阿津川辰海先生の短編集。
惹かれるタイトルの表題作の他、短編が3つ収録されたバリエーション豊かな短編集。
収録作『盗聴された殺人』に登場する探偵と助手は、2022年に長編『録音された誘拐』が刊行され、シリーズ化しています。
こちらに収録されている短編がそのコンビの最初の事件なので、『録音された誘拐』が気になっている方はこの短編集から読んでみてもいいかも。
あらすじ
透明人間は密室に潜む
透明人間になってしまう病気、透明人間病が流行した世界。透明人間はそこに存在していることを示すため、透明化を抑える薬を服薬し続けなければならない。
しかし、透明人間病に罹患している主人公は服薬を止め、完全な透明人間へと戻った。
完全犯罪を行うため――
六人の熱狂する日本人
裁判員裁判も最終局面。今日の評議で有罪が無罪かを決する。
犯人が自白しているため、楽な裁判だった。
あとは、トイレに行った裁判員が戻ってきたら、判決がほぼ決まっている評議を始めるだけ。
だが、トイレから戻ってきた裁判員は、どぎついピンクのTシャツに着替えている。
そのTシャツの胸には事件に関係のあるアイドルのグループ名のロゴが入っていた――
盗聴された殺人
「テディベア」
探偵の大野糺はそう言われ、推理を披露し得意になっていた助手の山口美々香は口を閉ざした。
それは山口にとって戒めの言葉。山口はテディベアが関わったあの事件を回想する。
大野とコンビを組んだ初めての事件。
犯行現場が盗聴され、殺人場面の音が証拠として残っていたあの殺人事件を――
第13号船室からの脱出
一泊二日。船の中での脱出ゲーム。ただの脱出ゲームのはずだった。
気が付いたら船内の一室に閉じ込められていた。たまたま居合わせた高校の同級生の、小学生の弟と共に。
ただのゲームのはずだったのに、マジの脱出をしなければならなくなった。
犯人の目的はなんだ? ここからどうやって脱出する?――
感想
四大ミステリランキング全てでベスト3に入っていることからもわかる通り。収録されている短編4つとも面白い。
表題の『透明人間は密室に潜む』はタイトルだけでわくわくさせられるし、『六人の熱狂する日本人』はユーモアが溢れている。特に、熱狂し始めてからの展開には思わず笑ってしまった。
『盗聴された殺人』は音から犯人を推理するのだが、しっかりとロジカルに事件が推理される。さらに、探偵と助手のキャラと関係がいい。
単行本あとがきより、ノンシリーズ作品集を目指して書いた。との事だったが、このコンビで長編の『録音された誘拐』が刊行されている。そのままシリーズ化して欲しい。
『第13号船室からの脱出』は意外な結末で面白かった。だが、作中で行われている脱出ゲームの解答があまりロジカルじゃなくて、少し納得がいかなかった。
脱出ゲームというものをやったことがないため実際は分からないが、あまりロジカルにはこだわっていないものかな?
まあ、小説のメインの謎は脱出ゲームじゃないし、テストプレイって設定だからわざと粗があるようにしたのかな。
なんにしても面白かった。
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