『透明人間は密室に潜む』阿津川辰海 | あらすじ、感想 – 表題含む4編の本格ミステリ “傑作” 短編集

初めに

 2020年刊行の阿津川辰海あつかわたつみ先生の短編集。

 惹かれるタイトルの表題作の他、短編が3つ収録されたバリエーション豊かな短編集。

 収録作『盗聴とうちょうされた殺人さつじん』に登場する探偵と助手は、2022年に長編『録音ろくおんされた誘拐ゆうかい』が刊行され、シリーズ化しています。

 こちらに収録されている短編がそのコンビの最初の事件なので、『録音された誘拐』が気になっている方はこの短編集から読んでみてもいいかも。

書誌情報

  著者 : 阿津川辰海あつかわたつみ
タイトル : 透明人間とうめいにんげん密室みっしつひそ
シリーズ : ノンシリーズ
    『盗聴された殺人』のみ、山口美々香やまぐちみみかシリーズ
 出版社 : 光文社
レーベル : 光文社文庫
  判型 : 文庫判ソフト
ページ数 : 352ページ(文庫)
 発行日 : 2020 / 4 / 22(単行本)
     2022 / 9 / 13(文庫)

受賞・ランキング

2021 第21回 本格ミステリ大賞 最終候補作


2020 週刊文春ミステリー   2位
2021 本格ミステリ      1位
2021 このミステリーがすごい 2位
2021 ミステリが読みたい   3位

 

あらすじ

透明人間とうめいにんげん密室みっしつひそ

 透明人間になってしまう病気、透明人間病が流行した世界。透明人間はそこに存在していることを示すため、透明化を抑える薬を服薬し続けなければならない。

 しかし、透明人間病に罹患している主人公は服薬を止め、完全な透明人間へと戻った。

 完全犯罪を行うため――

 

六人ろくにん熱狂ねっきょうする日本人にほんじん

 裁判員裁判も最終局面。今日の評議で有罪が無罪かを決する。

 犯人が自白しているため、楽な裁判だった。

 あとは、トイレに行った裁判員が戻ってきたら、判決がほぼ決まっている評議を始めるだけ。

 だが、トイレから戻ってきた裁判員は、どぎついピンクのTシャツに着替えている。

 そのTシャツの胸には事件に関係のあるアイドルのグループ名のロゴが入っていた――

 

盗聴とうちょうされた殺人さつじん

 「テディベア」

 探偵の大野糺おおのただすはそう言われ、推理を披露し得意になっていた助手の山口美々香やまぐちみみかは口を閉ざした。

 それは山口にとって戒めの言葉。山口はテディベアが関わったあの事件を回想する。

 大野とコンビを組んだ初めての事件。

 犯行現場が盗聴され、殺人場面の音が証拠として残っていたあの殺人事件を――

 

だい13号船室ごうせんしつからの脱出だっしゅつ

 一泊二日。船の中での脱出ゲーム。ただの脱出ゲームのはずだった。

 気が付いたら船内の一室に閉じ込められていた。たまたま居合わせた高校の同級生の、小学生の弟と共に。

 ただのゲームのはずだったのに、マジの脱出をしなければならなくなった。

 犯人の目的はなんだ? ここからどうやって脱出する?――

 

感想

 四大ミステリランキング全てでベスト3に入っていることからもわかる通り。収録されている短編4つとも面白い。

 表題の『透明人間は密室に潜む』はタイトルだけでわくわくさせられるし、『六人の熱狂する日本人』はユーモアが溢れている。特に、熱狂し始めてからの展開には思わず笑ってしまった。

 『盗聴された殺人』は音から犯人を推理するのだが、しっかりとロジカルに事件が推理される。さらに、探偵と助手のキャラと関係がいい。

 単行本あとがきより、ノンシリーズ作品集を目指して書いた。との事だったが、このコンビで長編の『録音された誘拐』が刊行されている。そのままシリーズ化して欲しい。

 『第13号船室からの脱出』は意外な結末で面白かった。だが、作中で行われている脱出ゲームの解答があまりロジカルじゃなくて、少し納得がいかなかった。

 脱出ゲームというものをやったことがないため実際は分からないが、あまりロジカルにはこだわっていないものかな?

 まあ、小説のメインの謎は脱出ゲームじゃないし、テストプレイって設定だからわざと粗があるようにしたのかな。

 なんにしても面白かった。

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