紹介
2023年1月に刊行された小西マサテル先生のデビュー作。
第21回『このミステリーがすごい!』大賞の大賞受賞作です。
認知症を患い、かつての聡明さは失われたように見えた祖父。しかし、孫娘の楓の身の回りで起きた謎を話して聞かせると、祖父はかつての聡明さを取り戻し、たちまち謎を解いてしまう。
小西先生は『ナインティナインのオールナイトニッポン』など、大人気ラジオ番組を手掛ける現役の放送作家。その縁もあってか、帯にはナインティナインの岡村隆史さん大絶賛の文字が!
このミス大賞 × 現役放送作家 × ベテラン人気芸人大絶賛。
これだけ盛られて、読みたくならないわけがない。
あらすじ
幻視や記憶障害の症状が現れる “レビー小体型認知症” を患った祖父は、かつての聡明さを失ってしまったと思っていた。しかし、孫娘の楓が身の回りで起きた謎を話し聞かせると、祖父は聡明さを取り戻し、たちまち謎を解いてしまう。
感想
連作短編ミステリーは最後に収録されている作品が面白い。
ミステリ好きのすべてがそう思っているでしょう。
この作品も例に漏れず最後が面白い。やっぱり連作短編はこうでなくては、と思わされる。物語の締め方も良くて、いい読後感だった。文庫化したらもう一度読みたい。
ミステリー小説として面白い作品ではあるのだが、この作品は以前に鮎川哲也賞の最終候補にも残ったこともあり、作中の登場人物も論理的な思考にこだわっている風な発言があったので、本格推理としても期待していたのだがそこは肩透かしを食らいました。
トリックに無理があるというか、事件関係者の行動原理に納得がいかない。納得がいかなかった例を一つ上げると、第二章の被害者の行動です。
被害者の死体は満席の居酒屋のトイレで見つかるのだが、この被害者は店の中にいたお客ではない。居酒屋の外から中にいる人の目を盗んでトイレに入るのだが、この行動原理がいまいちピンとこない。トイレまでの移動で見つかるリスクが高く、お客は利尿作用のあるアルコールを飲んでいるのでトイレの使用頻度は高いと思われる。それなのになぜ被害者はこの時間を選んで忍び込んだのかが全くもって説明されていない。
こういった作者が謎のために人物を動かしている感が感じられて、本格推理として物語にのめり込めなかったです。
あと、登場人物の言葉のニュアンスを推理材料にするなら、もっとちゃんと文章を校正して欲しい。誤字なのか伏線なのか分かりづらいです。
どうしても書きたくなって文句が多くなってしまったが、内容は面白かった。
登場人物が魅力的で、祖父との絆、恋模様など、ミステリー以外の部分でも楽しませてくれて、最初にも書いたが文庫化したらもう一度読みた思わせてくれるいい作品でした。
『名探偵のままでいて』というタイトルがすごくいいですね。表紙絵とあわせて作品の内容とマッチしていて手に取りたくなります。賞に応募したときのタイトルも『物語は紫煙の彼方に』と、いかにも小説のタイトルといった感じでかっこいいですが、少し硬く感じます。『名探偵のままでいて』の方がやわらかくて好きなので、いいタイトル変更だと思います。元のタイトルだともしかしたら手に取っていなかったかもしれません。
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