単行本『真贋』深水黎一郎 星海社
美術にまつわる犯罪を解決するために警視庁に新設された「美術犯罪課」。
その課長代理を命じられた森越歩未(もりこし・あゆみ)と唯一の部下・馬原茜(まはら・あかね)に初めて課された任務は、日本きっての名家・鷲ノ宮家による名画コレクションの巨額脱税疑惑。時価数百億円とも謳われるそのコレクションに出された鑑定結果は、なんと“すべてが贋作”だった──!?
捜査を進める中、新たに浮かび上がった「絵の中で歳を重ねる美女」の謎に、美術犯罪課は芸術探偵こと神泉寺瞬一郎(しんせんじ・しゅんいちろう)の力を借りて立ち向かうが──?
今と昔、真と贋とが絡み合う傑作美術ミステリ!
https://www.seikaisha.co.jp/information/2024/04/19-post-shingan.html
シリーズ物の9作目にあたる作品だと知らずに読んでしまったが、前作のネタバレっぽいものや意味不明な発言はなく、本作から読んでも不都合はなかった。
同シリーズは複数の出版社から刊行されているので、作者が意図的にシリーズの繋がりを薄くしているのかな?
ただ、他作品で出てきてそうな人物の名前だったり、描かれていそうな事件だったりをほのめかしたような発言があるので、シリーズを通して読んでるとより楽しいかも?
まあ、僕は他作品読んでないのでそれが本当に他作品に出てきてるかは知らないのだが……
ミステリの部分があっさりし過ぎで、真相もこちらの期待と想像を超えてこなく、本格ミステリ好きからしてはイマイチな評価。
登場人物のユーモアある会話がテンポよく展開されるのが面白かったが、〈驚く → 愕く〉など、一般的に使われる方ではない漢字がよく使われているのが気になって、読むリズムが狂わされるのがちょっと嫌だった。
芸術家や作品、美術館などの固有名詞の羅列が多く、特に芸術家や作品は前提知識として知っていないとどうしてもイメージが湧きにくく、小説と美術の相性の悪さを感じました。
だが、贋作をめぐる蘊蓄や歴史などの話はなかなか面白く、そのあたりの話や美術作品には関心を持ちました。それだけで、この本を読んでよかったと思います。
文庫『天狗屋敷の殺人』大神晃 新潮社
ヤンデレな恋人・翠(みどり)の婚約者として連れていかれた彼女の実家は、山奥に立つ霊是(りょうぜ)一族の“天狗屋敷”。失踪した当主の遺言状開封、莫大な山林を巡る遺産争い、棺から忽然と消えた遺体。奇怪な難事件を次々と解決するのは、あやしい“なんでも屋”!? 「いつかまた会えたらいいね」――夏が来るたび思い出す、あの陰惨な事件と、彼女の涙を。横溝正史へのオマージュに満ちたミステリの怪作。
https://www.shinchosha.co.jp/book/180286/
横溝正史オマージュというからおどろおどろしい作風を想像していたが、かなりポップで軽いノリの作風だった。
ヒロインがヤンデレって時点で薄々気づいてはいたが、前半はかなりラノベみたいなノリだった。横溝正史オマージュじゃなくて2000年代ラノベオマージュって言った方が正確なんじゃないかと思うほどラノベだった。
事件が起きると徐々にそのラノベぽい感じは薄れていくが、ラノベっぽさが薄れたと言うよりは、最初に登場人物に個性的なキャラ付けをしたはいいものの、後半は事件のことに集中するあまり作者がそのキャラ付けを作品に活かせなかったという印象。
それがどうなのかと問われると、事件に関係ない要素が省かれて読みやすくなって良かったとも言えるし、そのぶん犯人が分かりやすくなったとも応えられるので、良かったのか悪かったのかは一概には言えない。
【全ミステリファン瞠目必至の大トリック!】と公式サイトに掲げているだけあって、確かに大トリック!
犯人の方はすぐに予想がついてしまったものの、このトリックに関してはすごく良かった!
単行本『六色の蛹』櫻田智也 東京創元社
昆虫好きの心優しい青年・エリ沢泉(えりさわせん。「エリ」は「魚」偏に「入」)。行く先々で事件に遭遇する彼は、謎を解き明かすとともに、事件関係者の心の痛みに寄り添うのだった……。ハンターたちが狩りをしていた山で起きた、銃撃事件の謎を探る「白が揺れた」。花屋の店主との会話から、一年前に季節外れのポインセチアを欲しがった少女の真意を読み解く「赤の追憶」。ピアニストの遺品から、一枚だけ消えた楽譜の行方を推理する「青い音」など全六編。日本推理作家協会賞&本格ミステリ大賞を受賞した『蝉(せみ)かえる』に続く、〈エリ沢泉〉シリーズ最新作!
https://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488029036
魞沢泉シリーズ三作目だけれども、本作の作者のあとがきにシリーズの「どれから読んでも問題ないように書いた」とあるので、シリーズ前作を読んでなくても気兼ねなく読める作品です。
僕も実際に読んで、この作品から読んでも問題ないと思いました。
ただ、この作品は連作短編になっているので、収録短編は収録されている順番に読まないと面白さが半減するので注意が必要です。
探偵・魞沢泉のとぼけたキャラクターが面白く、短編ごとに変わる語り部とのユーモアある掛け合いが魅力的な作品です。
収録されている短編が全て50ページ前後なのも読みやすくていい。が、話が短いためどんでん返しのようなあっと驚く仕掛けがないため、真相に意外性がなくミステリ的には物足りなく感じました。
しかし、真相が明らかになったことによって見えてくる人間ドラマが琴線に触れ、読後感が良い。特に2番目に収録されている『赤の追憶』は名作。
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